食いしばりがインプラントに与える負担 マウスピースとボトックス
インプラントは、失った歯の機能を補うための治療法として有効です。
しかし、インプラントは過度な負担がかかると、その寿命を大きく縮めてしまうことをご存知でしょうか。
なかでも注意すべきなのが、無意識に歯を強く噛みしめてしまう「食いしばり」 です。食いしばりがインプラントに与える悪影響を理解しておくことで、適切な対処が可能になります。
本コラムでは食いしばりの原因を詳しく解説し、食いしばりからインプラントを守る対処法をご紹介します。インプラントを検討されている方、食いしばりにお悩みの方はぜひご参考にしてください。
食いしばりの原因
食いしばり(クレンチング)とは、睡眠中や集中しているときなどに、無意識のうちに上下の歯を強く噛みしめてしまう習慣を指します。
食いしばりが継続すると、歯や顎に大きな負担がかかるだけでなく、頭痛や肩こり、顎関節症などの原因となることもあります。
食いしばりが起こる背景には、複数の要因が関与しています。以下では、その代表的な原因についてご説明します。
ストレスによる無意識の食いしばり
食いしばりはさまざまな要因が関与する現象ですが、ストレスが大きく影響しているケースが少なくありません。無意識のうちに歯を食いしばり、ストレスや不安を解消しているともいわれています。
また、仕事やスポーツなどに集中しているときにも、無意識のうちに歯を食いしばってしまうことがあります。
歯並びや噛み合わせ、筋肉のバランス
歯並びの乱れや、咬筋(こうきん)など口腔周囲の筋肉の不調は、噛み合わせを不安定にし、特定の歯にのみ過剰な力が加わる原因となります。
こうした状態が続くと、無意識のうちに力が入りやすくなり、食いしばりが起こりやすくなります。
また、高さの合っていない詰め物や被せ物も噛み合わせに影響を与えるため、注意が必要です。さらに、舌を常に前に押し出す「舌癖」や、頬杖をつく習慣なども噛み合わせを乱す要因となります。
枕
枕の高さが合っていない場合も、食いしばりの一因となります。特に高めの枕を使用すると、首や顎に不自然な力がかかりやすく、睡眠中に奥歯を強く噛みしめる状態が続くことがあります。
また、寝姿勢や睡眠環境が整っていないと、睡眠の質が低下し、無意識下で筋肉の緊張が高まりやすくなるため、自分に合った枕を選ぶとともに、リラックスできる寝具や寝室の環境を整えることが重要です。
食いしばりからインプラントを守る方法
天然歯には、歯と歯槽骨の間に「歯根膜」と呼ばれる組織があり、クッションのような役割を果たしています。歯根膜があることで、咀嚼や噛みしめの際の力が緩衝され、歯や骨にかかる負担を和らげています。
インプラントには歯根膜がないため、食いしばりの力がそのままインプラント体に伝わってしまいます。食いしばりが頻繁に起こるとインプラント体へのダメージが大きくなり、インプラント周囲の骨吸収が促進されたり、インプラント体や人工歯(上部構造)が破損してしまったりする恐れがあります。
インプラントを長く安定して使用するためには、食いしばりを抑える対策が重要です。次の項目では、当院で行っている具体的な対策についてご紹介します。
ナイトガード
当院では、食いしばりによるインプラントへの負担を軽減するために、ナイトガードの使用を推奨しています。ナイトガードは、就寝時に歯に装着するマウスピースで、噛みしめの力を分散させ、インプラントや天然歯の摩耗・破損を防ぐ役割があります。
患者様ごとにオーダーメイドで作製するため、装着時の違和感が少なく、睡眠の妨げにもなりにくいのが特徴です。食いしばり対策として広く用いられており、継続的な使用で良好な効果が期待できます。
ボトックス治療
当院では、食いしばりの原因となる咬筋の過剰な緊張を緩和する方法として、ボトックス治療も行っています。この治療では、筋肉の働きを一時的に弱める作用のある薬剤(ボツリヌストキシン)を、咬筋に注射します。ナイトガードとの併用も可能です。
注射の効果は、通常2〜3日後から現れはじめ、3〜6ヶ月ほど持続します。永続的な効果ではありませんが、定期的な治療により食いしばりによる負担を軽減することが可能です。
ストレス管理
食いしばりは、日常生活におけるストレスが大きく関係しているケースが多いことから、ストレスを適切にコントロールすることも症状の緩和につながります。
日常生活のなかで、適度な運動やストレッチ、趣味の時間を取り入れることは、精神的な緊張をほぐし、無意識の食いしばりを軽減する助けとなります。加えて、照明や寝具など、リラックスしやすい環境を整えることも有効です。
ストレス管理が困難な場合は、専門家によるカウンセリングや心理療法を受けることもぜひ検討してください。
当院では、インプラント治療を受けられた患者様が、治療後も快適に、長くインプラントを維持できるよう継続的なサポートを行っています。
食いしばりにお悩みの方や、インプラントに関するご不安がある方は、どうぞお気軽にご相談ください。
Q1:食いしばりは治療すれば必ず治りますか?
A1:いいえ、必ず治るとは言い切れません。特に、ストレス発散のための食いしばりを完全に治すことは難しいでしょう。症状を緩和させ、うまく付き合っていくために治療すると考えることをお勧めします。
Q2:自分が食いしばりをしているかどうか、判断する方法はありますか?
A2:口まわりの筋肉の緊張や頬粘膜圧痕、骨隆起などがある場合は、食いしばりが疑われます。また、食いしばりをしている方の舌の側面には、歯型のようなギザギザした跡がついていることもあります。
医療法人明貴会 山口歯科医院 理事長 山口貴史
日本口腔インプラント学会 専門医
国際口腔インプラント学会;ドイツ口腔インプラント学会認定医指導医
日本抗加齢医学会専門医
厚生労働省 臨床研修指導歯科医
高濃度ビタミンC点滴認定医