インプラントが向かない人とは?治療できないケースと代替治療を解説
「インプラントを考えているけれど、自分は治療を受けられるのだろうか?」
そんな疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
インプラントは失った歯を補う優れた治療法ですが、すべての人がすぐに治療を受けられるわけではありません。顎の骨の状態や全身の健康状態、口腔内の環境によっては、インプラント治療が難しいケースや慎重な判断が必要なケースがあります。
例えば、
・重度の歯周病がある
・顎の骨の量が不足している
・糖尿病などの持病がある
・喫煙習慣がある
・顎の骨の成長が終わっていない
このような場合は、インプラントが向いていないと判断されることがあります。
しかし、インプラントが難しいと診断された場合でも、必ずしも歯を補う治療を諦める必要はありません。骨造成などの事前治療によってインプラントが可能になるケースや、入れ歯・ブリッジなどの代替治療を選択できるケースもあります。
この記事では、インプラントが向かない人の特徴や治療できないケース、インプラント以外の選択肢について歯科医師の視点からわかりやすく解説します。ご自身がインプラント治療に適しているか判断する参考にしてください。
【セルフチェック】インプラントが向かない人の10の特徴
インプラント治療を検討している方に向けて、治療に不向きとされる可能性のある特徴をあげます。
これらはあくまで一般的な目安であり、該当するからといって必ずしも治療が受けられないわけではありません。ご自身の状況を把握し、歯科医師に相談する際の参考にしてください。
最終的な判断は、精密な検査と専門家による診断が必要です。
【口腔内の問題】インプラント治療が難しいケース
インプラントは、顎の骨に人工の歯根を埋め込む外科手術です。
そのため、手術の土台となるお口の中が健康で安定した状態でなければ、治療の成功は望めません。
特に、インプラントを支える顎の骨の状態や、歯周組織の健康が、治療の可否を左右する重要な要素となります。
顎の骨の量や密度が不足している
インプラントを顎の骨に埋め込み、安定させるためには、十分な骨の量や密度が必要です。
歯を失ったまま長期間放置したり、重度の歯周病にかかったりすると、顎の骨は徐々に吸収されて痩せてしまいます。
骨が不足している状態でインプラントを埋めても、しっかりと固定できないため、そのままでは治療は無理だと診断されることがあります。
重度の歯周病にかかっている
歯周病は、歯を支える骨を溶かしてしまう感染症です。
歯周病がコントロールされていない状態でインプラント治療を行うと、インプラントの周囲でも同様の炎症(インプラント周囲炎)が起こり、最終的にはインプラントが抜け落ちてしまうリスクが高まります。
安全に治療を進めるためには、まず歯周病の治療を完了させ、歯茎の状態を健康に保つことが必須です。
重度の虫歯が多数残っている
治療していない虫歯が多数ある場合、口腔内の衛生環境が悪いことを示しています。
虫歯菌などの細菌が多い環境では、インプラント手術後の傷口が感染を起こすリスクが高まり、インプラントと骨の結合を妨げる原因になりかねません。
インプラント治療を始める前に、まずは残っている天然歯の虫歯をすべて治療し、口腔内全体の健康を回復させることが優先されます。
【持病・全身疾患】インプラント治療に注意が必要なケース
インプラント治療には外科手術が伴うため、全身の健康状態が大きく影響します。
特に、免疫機能や創傷治癒能力、血液の凝固機能に関わる持病をお持ちの場合は、手術のリスクが高まるため慎重な判断が求められます。
治療にあたっては、かかりつけ医との緊密な連携が不可欠です。
血糖コントロールが不安定な糖尿病がある
血糖値のコントロールが良好でない糖尿病患者様は、免疫力が低下して感染症にかかりやすくなるうえ、傷の治りが遅くなる傾向があります。
そのため、手術後にインプラントと骨がうまく結合しないリスクが高く、治療には不向きと判断されることがあります。
ただし、内科医と連携して血糖値が安定的に管理されていれば、治療を受けられる場合も多くあります。
骨粗しょう症の治療薬を服用している
骨粗しょう症の治療で、特にビスフォスフォネート(BP)製剤と呼ばれる種類の薬を服用または注射している場合、インプラント手術などの抜歯を伴う治療が引き金となり、顎の骨が壊死する「顎骨壊死」という重篤な副作用が起こる可能性があります。
そのため、インプラント治療が無理だと判断されるケースがあります。
自己判断での休薬はせず、必ず主治医と歯科医師に相談してください。
高血圧や心臓疾患など循環器系の病気がある
高血圧や狭心症、心筋梗塞などの循環器系疾患がある方は、手術中のストレスや麻酔によって血圧が大きく変動するリスクがあります。
また、血液をサラサラにする薬(抗凝固薬・抗血小板薬)を服用している場合、手術中や手術後の出血が止まりにくくなる可能性も考慮しなければなりません。
かかりつけ医と連携し、全身状態を管理しながらであれば治療可能な場合もあります。
【生活習慣・その他】インプラントの成功率を下げる要因
特定の病気がなくても、日々の生活習慣や年齢、身体的な状況がインプラントの成功率や寿命に影響を及ぼすことがあります。
これらの要因はご自身の努力で改善できるものも含まれており、改善することで、よりインプラント治療に向いている状態を目指すことが可能です。
喫煙習慣がある(タバコを吸う)
喫煙はインプラント治療の成功率を著しく低下させる大きなリスク要因です。
タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させて血行を阻害し、傷の治りを遅らせます。
また、免疫力を低下させるため感染しやすく、長期的にはインプラント周囲炎のリスクも高まります。
喫煙者はインプラントに不向きとされ、多くの歯科医院で治療前後の禁煙が条件となります。
毎日のセルフケアや定期メンテナンスが難しい
インプラントは虫歯にはなりませんが、手入れを怠ると歯周病に似た「インプラント周囲炎」を引き起こします。
インプラントを長持ちさせるには、ご自身の毎日の丁寧なブラッシングと、歯科医院での定期的なプロフェッショナルケアが不可欠です。
これらのメンテナンスを継続することが難しい方は、長期的な維持が困難になるため治療は推奨されません。
成長期が終わっていない未成年(10代)
10代などの未成年者は、顎の骨がまだ成長している途中の段階です。
この時期にインプラントを埋入すると、その後の顎の成長に伴ってインプラントの位置がずれ、周囲の歯との噛み合わせや歯並びがおかしくなってしまう可能性があります。
一般的に、顎の骨の成長が完了する20歳前後になってから治療を検討するのが望ましいとされています。
妊娠中または妊娠の可能性がある
妊娠中のインプラント治療は原則として行いません。
手術で用いる麻酔薬、術後に処方される抗生物質や痛み止めなどが、胎児に影響を及ぼす可能性があるためです。
また、外科手術は母体への負担も大きいため、緊急性が高い場合を除き、無理に治療を進めることはせず、出産後の体調が落ち着いてから計画するのが一般的です。
インプラントが「向かない」と言われた場合の対処法
歯科医師からインプラント治療が難しいと伝えられたとしても、すぐにあきらめる必要はありません。
治療が困難とされる原因を解決したり、適切な処置を行ったりすることで、安全にインプラント治療を受けられるようになるケースは少なくありません。
ここでは、その代表的な対処法について紹介します。
骨造成治療で顎の骨を増やす
インプラントを埋め込むための骨の量が不足している場合には、「骨造成」という治療法で骨を増やすことが可能です。
GBR法やサイナスリフトといった手法があり、骨が足りない部分に骨補填材やご自身の骨を移植することで、インプラントを支えるのに十分な土台を再建します。
これにより、骨不足が原因で治療を断念していた方も、インプラントが可能になります。
歯周病や虫歯の治療を完了させる
重度の歯周病や未治療の虫歯が原因でインプラントができないと判断された場合は、まずそれらの治療を完了させることが最優先となります。
歯周病治療によって歯茎を健康な状態に戻し、すべての虫歯を治療して口腔内を清潔な環境に整えることで、インプラント治療の成功率を高めることができます。
お口全体の健康を回復させることが、治療への第一歩です。
禁煙して生活習慣を改善する
喫煙習慣がインプラント治療の妨げになっている場合、最も直接的な解決策は禁煙です。
治療開始前から一定期間禁煙することで、血流が改善し、手術後の傷の治りが促進され、感染リスクも大幅に低下します。
インプラント治療を成功させ、長持ちさせるためにも、禁煙は非常に重要です。
インプラント治療は、ご自身の健康的な生活習慣を見直す良い機会にもなります。
禁煙に成功すれば、よりインプラント治療に向いている状態になります。
かかりつけ医と連携して持病をコントロールする
糖尿病や高血圧などの全身疾患が理由でインプラント治療が難しいとされている場合、かかりつけの内科医と歯科医師が密に連携することが解決の鍵となります。
内科医の管理のもとで血糖値や血圧を安定させ、手術に適したタイミングを計るなど、全身状態をコントロールすることで、安全に手術を受けられる可能性が高まります。
インプラント以外の治療法の選択肢
様々な理由でインプラント治療が適さない場合や、他の治療法も比較検討したい場合には、ブリッジや入れ歯(義歯)といった確立された治療法があります。
それぞれの治療法にメリットとデメリットがあるため、ご自身の希望やライフスタイル、お口の状態を総合的に考慮して、最適な方法を選ぶことが大切です。
ブリッジ:隣の健康な歯を支えにする治療法
ブリッジは、失った歯の両隣にある健康な歯を削って土台にし、そこに橋を架けるように連結した人工歯を被せて固定する治療法です。
取り外しの必要がなく、自分の歯に近い感覚で噛むことができます。
見た目も自然に仕上げることが可能です。
外科手術を避けたい方や、比較的短期間で治療を終えたい方に向いている選択肢といえます。
入れ歯(義歯):取り外し可能な人工の歯
入れ歯は、取り外しが可能な人工の歯で、残っている歯に金属のバネなどをかけて固定する「部分入れ歯」と、歯が1本も残っていない場合に用いる「総入れ歯」があります。
健康な歯をほとんど削ることなく作製でき、外科手術も不要です。
多くの症例に対応可能で、比較的費用を抑えられるため、手術に抵抗がある方や複数の歯を失った方に向いている治療法です。
インプラント・ブリッジ・入れ歯のメリットを比較
失った歯を補う治療法には、それぞれ異なるメリットがあります。
インプラントは、審美性に優れ、天然歯とほぼ同じ力で噛める点が最大の長所です。
ブリッジは固定式のため安定感があり、治療期間が比較的短いのが利点です。
入れ歯は、外科手術が不要で広範囲の欠損に対応できます。
どの治療法がご自身に向いているか、これらのメリットを比較して検討することが重要です。
インプラント・ブリッジ・入れ歯のデメリットを比較
治療法を選択する上では、デメリットの理解も欠かせません。
インプラントは、外科手術が必要で治療期間が長くなることもあります。自由診療のため費用が高額になります。
ブリッジは、支えにするために健康な歯を削る必要があり、その歯に負担がかかります。
入れ歯は、咬む力や咀嚼能力が天然の歯の最大30%ほどしか回復できません。違和感やガタつきが出やすく、食べ物が挟まることもあります。
インプラントに関するよくある質問
ここでは、インプラントが向かない人に関してよくいただくご質問とその回答をご紹介します。
治療を検討する際の不安や疑問を解消するための一助としてください。
高齢でもインプラント治療は受けられますか?
年齢自体に上限はなく、高齢であることを理由に治療ができないわけではありません。
重要なのは年齢よりも全身の健康状態です。
持病がなく、外科手術に耐えられる体力があり、骨の状態に問題がなければ80代以上の方でも治療は可能です。
かかりつけ医と相談の上、慎重に判断しましょう。
歯ぎしりや食いしばりの癖があるとインプラントはできませんか?
すぐに無理と判断されるわけではありませんが、対策が必要です。
無意識下での強い力は、インプラント本体や上部構造の破損、ネジの緩みにつながるリスクがあります。
咬筋にボトックス注射を行い力のコントロールをしたり、就寝時にナイトガードと呼ばれる専用のマウスピースを装着し、インプラントへかかる過度な負担を軽減することで、治療は可能です。
金属アレルギーがあってもインプラント治療は可能ですか?
多くの場合、治療は可能です。
インプラントの主な素材であるチタンは、生体親和性が高く、金属アレルギーを非常に起こしにくい金属です。インプラント体の素材はチタン合金と純チタンがあります。チタンの表面は不動態と呼ばれるナノレベルの極めて強固な酸化皮膜(主に二酸化チタン)で覆われる為生体内でイオン化することはありません。
まとめ
インプラント治療が向かないとされる要因には、お口の中の問題から全身疾患、生活習慣まで多岐にわたります。
しかし、骨を増やす治療や関連する病気の治療、生活習慣の改善など、適切な対処を行うことで、インプラント治療が可能になるケースも少なくありません。
ご自身がインプラントに向いているかどうか、またブリッジや入れ歯も含めてどの治療法が最適かを知るためには、自己判断せずにまずはインプラント治療に対する専門的な知識のある歯科医師に相談し、専門的な診断を受けることが重要です。
記事監修 医療法人明貴会 ⼭⼝⻭科医院 理事⻑ ⼭⼝ 貴史
■ 略歴
- 1982年 大阪歯科大学卒業
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